固定残業代

固定残業代(みなし残業代、定額残業代)とは、使用者が労働者に対して、あらかじめ一定時間残業したものとみなし、そのみなし残業時間分の法定時間外労働、法定休日労働、深夜労働に対する割増賃金を、定額の手当または基本給の一部として固定的に支払う賃金体系のことです。


固定残業代はなぜ利用されるのか?その注意点とは?


固定残業代が利用される背景とその問題点

固定残業代は法律上に明文の根拠を有する制度ではありませんが、実務上はよく利用される残業代の支払い制度です。

導入の動機は、

  1. 煩雑な残業代計算の手間を省く
  2. 月額の固定給を高額に見せられる
  3. 残業単価は固定残業代や除外賃金を引いて計算でき、残業代を低く抑えられる

などが挙げられます。

しかし、(1)は毎月残業代を一定額支給するにしても、使用者には労働時間の把握義務と時間外労働分の賃金の計算義務から逃れられません。(2)や(3)に関しては、近ごろこのような形で賃金を高く見せかけたり、残業代を低く抑えたりする手法には「ブラック企業」であるという批判があることに注意が必要です。


固定残業代の有効性に関する裁判例の流れ

固定残業代は法律上に要件がないため、労働基準監督署(労基署)や裁判所において、有効無効の判断が分かれ、労基署では有効でも、裁判所で無効となる場合があります。そのため、固定残業代に関して争った裁判例とそこで出された補足意見を参照し、問題とならないと類推できる制度設計をする必要があります。

最高裁は高知県観光事件判決(最二小判平6・6・13)において、タクシー運転手の歩合給につき通常の労働時間に対する賃金(通常賃金)と割増賃金が区別できないことを理由に残業代としての性格を否定しました。この判例を受けて、固定残業代を巡る裁判において通常賃金と割増賃金の明確区分性(判別可能性)と、固定残業代が基本給や手当に対して割増賃金の趣旨であるかという対価性の2点から有効性が判断されるようになりました。

その後、テックジャパン事件判決(最一小判平24・3・8)では、高知県観光事件と同様の枠組みで基本給に組み込んだ固定残業代の有効性を否定した上で、櫻井龍子裁判官の(1)雇用契約上および支給時の明示、(2)固定残業代を超過した割増賃金の別途支給の明示を求める補足意見が付されました。

さらに国際自動車事件判決(最三小判平29・2・28)において最高裁は、割増賃金の支払いには、明確区分性(判別可能性)が必要であることを一般論として初めて判示しました。


固定残業代の有効性を確保しつつ運用するためのポイントとは?

固定残業代は実務的に非常にニーズが高く、今後も変わらず利用されると考えられますが、その際には、裁判例の判断基準を踏まえた運用が欠かせません。

固定残業代の導入および運用に関しては、割増賃金の一部があらかじめ支払われていることが、形式上も実質上も認められた上で、適正な残業代である必要があります。具体的には、①労働契約書や労働条件通知書における割増賃金としての固定残業代制度および金額の明示、②給与規定への固定残業代制度の記載および給与明細書での固定残業代の明示、③固定残業代の額が、労働基準法で定められた割増賃金額を下回る場合の差額の精算および支払いが求められます。

さらに注意すべきは、固定残業代を「何時間分」支給するかということです。マーケティングインフォメーションコミュニティ事件判決(東京高判平26・11・26)は、厚生労働省の「時間外労働の限度に関する基準」(限度基準)が1カ月当たりの延長時間の限度を45時間としていることから、100時間分の固定残業代について時間外労働の対価としての性格を否定しました。長時間労働抑止の観点からも、1カ月当たりの限度基準の範囲内に設定する必要があるでしょう。


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この記事を書いた人

小川輝行

特定社会保険労務士、ファイナンシャルプランナー

法政大学法学部法律学科卒業。現在は社会保険労務士法人シグナルのアドバイザーとして従事。 社会保険労務士として、主に就業規則作成、労使トラブル予防・解決の相談に対応。社会保険労務士試験受験用の問題集や実務書の作成スタッフも担当。

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