産業医

産業医とは、事業場における労働者の健康管理等について、専門的な立場から指導・助言を行う医師のことをいいます。企業の全従業員数でなく、それぞれの事業場で50人以上の労働者がいる場合に、事業場ごとに産業医の選任が必要となります。人数や業務によっては複数人あるいは専属(職場に勤務する)の産業医が求められ、違反している場合には罰則があります。産業医の役割は、安全衛生委員会への参加や職場巡回、健康診断のチェック、休職・復職面談、健康相談などです。2015年12月から労働安全衛生法の改正に基づき義務化されたストレスチェックの実施においても、結果の閲覧や指導など大きな役割を果たしています。


社員の健康が企業の競争力を生み出す中、産業医をどのように活用するか


産業医が担う役割の拡大

産業医は1972年の労働安全衛生法(安衛法)の制定によって定められました。産業医は、日本医師会や産業医科大学などの特定の研修を修了した医師だけがなることができます。企業内で活躍する医師は以前から存在しており、1938年の工場法改正では「工場医」の選任、1947年制定の労働基準法では衛生管理者として医師が必要であると定められていました。

1980年代後半から過労死や過労自殺の問題が社会問題化しました。1988年、1992年と健康保持増進措置の努力義務化、快適な職場環境の形成を目的とした安衛法の改正がされてきました。そして1996年に再び安衛法の改正が行われ、長時間労働によって脳・心臓疾患などにかかる労働者の増加や、職場での悩み・ストレスに関わる問題が表面化し、社会問題へと発展しました。そこで労働者の健康管理等について事業者に必要な勧告を産業医が行えるようになりました。具体的には、労働者が心身の健康において大きなリスクがある場合に、残業や出社停止などの処置がとれるといったものです。それに加え、2007年には労働契約法が制定され、その中に使用者に対する安全配慮義務として、従業員が心身共に安全な状態を確保しなければならないことが明示されました(労働契約法第5条)。働くうえでの安全・衛生面を整えることが求められるようになり、指導・助言を行う立場としての産業医の役割は大きくなってきています。


安衛法第66条の8では、事業者に対し長時間労働者への医師による面接指導を行う義務を課しています。これは1週間当たり40時間の労働時間を基準として、1カ月当たりの時間外・休日労働時間が100時間を超え、かつ疲労の蓄積が見られる(申し出による)場合に産業医による面接指導を行うものです。また、2~6カ月の時間外・休日労働平均時間が80時間を超えた場合(申し出による)や、事業場で定める基準を超えた場合も面接指導を行う必要があります。「働き方改革」では長時間残業の是正が目的の一つとなっていることからも、企業には安全配慮義務を果たすことが求められます。

また、産業医の大きな役割の一つに、休職者の復職判定があります。例えば、メンタルに起因した疾病により休職したケースでは、主治医による診断書で「復職可」とされていても、産業医が「復職可」としない限りは復職することができません。産業医は専門的知識に加え、社内の労働環境への理解があることから、総合的に判断できると考えられるためそのような仕組みになっています。2015年12月に義務化されたストレスチェックにおいても、産業医は個人結果を閲覧できるようになりました。また高ストレス者の面接の実施者は、産業医であることが推奨されています。このように、産業医の役割は拡大しています。


メンタルヘルス領域の産業医の少なさ

近年、メンタルヘルス問題が増加し、それに対応しなければならない産業医の役割は拡大していますが、この領域を専門とする産業医の数は多くありません。そのため、既に依頼している産業医とは別に、メンタルヘルス領域を専門とする産業医に依頼する企業が出てきました。この場合、嘱託や外部の活用が必要となります。


健康経営にも重要な役割を果たす産業医

経営的な視点で戦略的に従業員等の健康管理を実践する「健康経営」を推進する企業が増えてきました。従業員の活力向上や生産性向上を目的として健康に投資することによって、業績の向上などにつながると考えられており、厚生労働省も推進しています。健康管理方針やプログラム評価など、産業医から助言を得ることなども推奨されています。また、個人の健康課題だけでなく、生活習慣改善などの健康づくりといった継続的な取り組みも、産業医と連携して行うことが求められています。


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この記事を書いた人

金澤元紀

ピープルアナリティクス&HRテクノロジー協会上席研究員

2003年慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科修士課程修了。インターネットベンチャー企業での新卒内定者に関するコンサルティング営業、メンタルヘルスサービス提供企業での適性検査の開発、情報サービス企業での人事に従事。採用やHRテクノロジーを中心に人事領域全般について調査・研究を行う。

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