最低賃金

最低賃金とは、労働者に支払う賃金額(時給)の最低額を国が強制力(罰則)をもって定めたもので、使用者は最低賃金額を下回る金額で労働契約を締結することはできません。最低賃金制度には、労働市場におけるセーフティーネットの役割があります。最低賃金には都道府県単位で設定される「地域別最低賃金」と、鉄鋼業、生産用機械器具製造業といった特定の産業について設定される「特定(産業別)最低賃金」があります。特定(産業別)最低賃金も都道府県別に設定されているので、地域別と特定の両方が適用になる労働者には、より高額なほうの最低賃金が適用されます。

最低賃金額は毎年8~9月ごろに目安額が中央最低賃金審議会から示され、それを受けて地方最低賃金審議会が地域別の最低賃金額を決定し、10月から新しい最低賃金が適用となります。中央と地方のそれぞれの最低賃金審議会は、公益代表、労働者代表、使用者代表の各同数の委員で構成されています。


最低賃金は本当に労働市場のセーフティーネットとして機能しているのか?


戦後の生活不安を解消するための最低賃金

最低賃金は戦時下の1939年に賃金統制令として立法化されたのが始まりといわれています。賃金統制令では賃金の最低額だけではなく最高額についても規定されていました。1939年はナチス・ドイツがポーランドに侵攻し、第2次世界大戦が勃発した年です。当時は戦争の影響で軍需産業が一気に活況を呈し、そのために労働力不足が生じ、賃金が高騰していました。賃金統制令は最低賃金を保障するという目的だけでなく、賃金の上限を定めることで、賃金の高騰を抑えることを目的に導入されました。

終戦後の生活不安の中で労働組合運動が盛んになり、本格的な最低賃金制度の導入が要請されました。混乱した経済の安定化を最優先に考えたGHQの方針などで導入が遅れ、1950年になってようやく最低賃金制を審議する中央賃金審議会が設置されました。1950年は生活保護法が福祉機能を強化し、全面改正された年でもあります。複雑な経過を経て、実際に最低賃金法が制定されたのは1959年です。その後、最低賃金法は1968年に大きく改正され、今日まで続く「地域別最低賃金」「特定最低賃金」という2つの制度が確立されました。


最低賃金は毎年上昇を続けています。この上昇トレンドの発端となったのが、2016年6月2日に閣議決定された「ニッポン一億総活躍プラン」です。このプランの中で、最低賃金については、年率3%を目安として、名目GDP成長率にも配慮しつつ引き上げていき、全国加重平均が1,000円を目指すことが示されました。この時から最低賃金政策は、同一労働同一賃金政策と同じ非正規雇用対策の一つとなったのです。

今後、同一労働同一賃金政策が推し進められることで、正社員と非正規労働者間の賃金格差が是正され、より均衡のとれた賃金額となっていくと考えられます。ただし正社員とは異なる職務に従事する労働者も一定数残るため、最低賃金制度の意義は今後も失われることはないでしょう。


最低賃金は生活保護費よりも安い?

生活保護費は、憲法第25条が保障する「健康で文化的な最低限度の生活」を維持するためのものです。一方最低賃金は、労働条件の改善を図り、「労働者の生活の安定、労働力の質的向上」に資するためのものです(最低賃金法第1条)。それぞれ法の目的が異なっていますが、生活保護基準が最低賃金水準よりも上回る逆転現象に対しては批判もあります。一方で、最低賃金の上昇や生活保護費の水準調整によって、両者の均衡が図られてきているとの指摘もあります。


最低賃金の上昇により人件費が高騰するリスクに備える

最低賃金の上昇により企業の人件費が高騰し、事業として立ちいかなくなる企業も出始めています。人件費の高騰は、最低賃金の上昇だけでなく、同一労働同一賃金政策による非正規労働者の賃金水準の上昇や、労働供給量の減少(人手不足)によっても生じます。人件費の高騰リスクに対しては、業務内容の見直しによる高付加価値化や業務の自動化、機械化、情報システムの導入などによる作業効率の引き上げなど、生産性を向上させるための取り組みが不可欠です。


月給等は時給換算し、最低賃金と比較する

最低賃金額はかつて、時給だけでなく日額でも定められていましたが、パートタイム労働者の増加など雇用形態の多様化を受けて、2002年度以降は時給で統一されています。そのため日給や月給で支払っている会社では、日給額や月給額を実際の労働時間で除し、時給換算してから最低賃金額と比較するようにしなければなりません。

また最低賃金の規制対象となる賃金は、「1月を超えない期間ごとに支払われる通常の労働時間または労働日の労働について支払われる賃金」です。1月を超える期間で算定される賞与や、時間外・休日・深夜労働による割り増し部分の賃金は規制の対象外となります。


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この記事を書いた人

本田和盛

あした葉経営労務研究所 代表 社会保険労務士

コマツにて法人営業、販売企画、人材育成などの業務を担当後、人事・労務のプロフェッショナルを目指し退職。社会保険労務士として独立開業後10年間 で、200社を超える企業で人事・労務・採用に関するコンサルティングを行う。

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