「毎月勤労統計」不正問題と人事への影響は?

人事業務にどのような影響があるか

毎月勤労統計不正の影響は、雇用保険・労災保険の給付額に及ぶものであるため、雇用保険でいえば退職者、労災保険なら被災して給付を受けた人に直接的な影響があります。しかしこれらは、それぞれの保険の保険者と受給者との間で解決されることになります。

したがって、毎月勤労統計不正問題によって、人事・労務担当者に特別な業務が発生することありません。ただ、従業員や元従業員からの問い合わせがあるかもしれないため、問題の概要と影響範囲、また厚生労働省の対応についても適宜把握しておくとよいでしょう。

「毎月勤労統計」不正問題と人事への影響は?

目次

  1. 1. 「毎月勤労統計」とは?不正問題とは?

  2. 2. 毎月勤労統計の不正問題、雇用保険・労災保険への影響

  3. 3. 追加給付の対象となる可能性のある人

  4. 4. まとめ

「毎月勤労統計」とは?不正問題とは?

雇用保険・労災保険の給付額の上限額や下限額などを算定する際に、「毎月勤労統計」の平均給与額の増減状況などが用いられています。そのため、毎月勤労統計で「本来より低めに出た賃金額」を用いて算定した給付額が、本来支払われるべき額よりも低くなってしまったことが、この問題のポイントです。 

毎月勤労統計とは?

「毎月勤労統計」は、厚生労働省が公表している調査です。全国の事業所における雇用者数、給与、労働時間について、毎月の状況や増減の動きを明らかにすることを目的とする調査で、その名の通り毎月実施しています。統計法に基づいて実施されている、国の重要な統計調査「基幹統計調査」の一つでもあります。

毎月勤労統計調査の結果は、経済指標の一つとして、景気判断や都道府県の政策決定の指針とされるほか、雇用保険、労災保険の給付額を改定する際の資料として使われます。また、民間企業などにおける給与改正や人件費の算定にも使われたり、日本の労働事情を表す資料として海外に紹介されたりもする調査です。

不正問題の概要

ところが2018年末、この毎月勤労統計について、本来とは違う手法で一部調査されていたことが発覚しました。本来は、従業員数500人以上の事業所は全て調査対象としなくてはいけないのですが、2004年以降の東京都分について、約3分の1の事業所のみを抽出して調査を実施していたのです。

さらに、全数調査ではなく抽出調査をしていたにもかかわらず、統計的処理として復元すべきところを復元していなかったため、結果として2004年以降の毎月勤労統計調査において、賃金額が実際よりも低めに出るなどの影響が出ました。

なぜこのような問題が起こったのか、また、どうして調査方法を変更したにもかかわらず公表されなかったかについては、すでに調査が行われているためここでは触れません。ただ、毎月勤労統計が雇用保険・労災保険に、具体的にどのような影響を与えたのか、そのメカニズムは人事担当者として知っておくべきでしょう。

毎月勤労統計の不正問題、雇用保険・労災保険への影響

ここでは、雇用保険の基本手当、および労災保険の休業(補償)給付の給付額の算定方法を、具体的な例を挙げて、どのような理由で給付額が本来よりも少なくなってしまったのかを解説します。

例1:雇用保険の「基本手当(失業給付)」給付額に影響

雇用保険の基本手当は一般的には失業給付などとも呼ばれます。基本手当(失業給付)は、離職者の「賃金日額」に基づいて「基本手当日額」を算定します。

この「賃金日額」については上限額と下限額が設定されています。そして、賃金日額の「上限額と下限額」は、「毎月勤労統計」の平均定期給与額(毎月決まって支給される給与額)の増減によって、毎年8月1日にその額が変更されます。

ということは、この平均定期給与額が統計不正によって実態よりも低く出ていたら、賃金日額の「上限額と下限額」もそれに伴って低くなります。そして、基本手当日額もそれに準じて低くなってしまうということなのです。下記にその仕組みを説明します。

<雇用保険の基本手当給付額の算定方法の基本>

「基本手当日額」に、基本手当の所定給付日数(90日~360日)を乗じたものが、給付総額となります。 ※所定給付日数は、受給資格に係る離職の日における年齢、雇用保険の被保険者であった期間、離職の理由などによって、90日~360日の間で日数が決まります。

「基本手当日額」とは、失業給付の1日当たりの金額です。これは、賃金日額に、年齢や賃金日額によって異なる係数(45~80%の間で設定される)を乗じて算定されます。

「賃金日額」とは、離職した日の直前の6カ月に毎月決まって支払われた賃金の総額を180(30日×6カ月)で除した金額です。

<賃金日額の「上限額と下限額」とは>

例えば、下限額が2,480円に設定されている場合、退職日前の6カ月の賃金総額÷180が2,300円だったとしても、賃金日額は2,480円として計算します。上限額が13,500円に設定されている場合、退職日前の6カ月の賃金総額÷180が14,000円だったとしても賃金日額は13,500円として計算するわけです。

なぜこのようになっているかというと、雇用保険の「労働者が失業した場合に、セーフティネットとして、その生活の安定と早期再就職を支える」という目的に即して設計された仕組みだからです。つまり、賃金が高かった人への給付は比較的抑え、極端に賃金が低かった人の生活をより強く支える、そのために上限額と下限額を設定しているのです。


例2:労災保険の「休業(補償)給付」の給付額に影響

労災保険の休業(補償)給付等の給付額は、「給付基礎日額」に基づいて算定されます。

被災時の事情によって給付基礎日額が極端に低い場合であっても労災保険給付の補償効果の実効性を確保するため、「最低保障額」が設定されています。給付基礎日額が最低保障額を下回る場合には、最低保障額を給付基礎日額として計算します。

この最低保障額を算定する際に、毎月勤労統計調査の平均定期給与額を元にしています。平均定期給与額が統計不正によって実態よりも低く出ていれば、それに伴って最低保障額が低くなり、本来受給できるはずの額よりも少ない給付額となっていた人がいるということになります。

労働保険の休業(補償)給付額

休業1日につき、給付基礎日額の80%(休業(補償)給付=60%+休業特別支給金=20%)が支給されます。「給付基礎日額」とは、労働基準法12条に規定されている平均賃金に相当する額であり、基本的には、被災日前の3カ月間の被災者の賃金の総額をその期間の暦日数で除した1日当たりの賃金額です。

追加給付の対象となる可能性のある人

例に挙げた、雇用保険の基本手当、労災保険の休業(補償)給付と同様の理由で、毎月勤労統計の不正の影響を受けた可能性がある人を厚生労働省が公表しており、「現在、追加のお支払いの対象となる方や給付額の確定作業中」と述べています(2019年6月現在)。

雇用保険関係 以下の給付を、2004年8月以降に受給された方
・基本手当、高年齢求職者給付、特例一時金
・就職促進給付
・高年齢雇用継続給付
・育児休業給付、介護休業給付
・教育訓練支援給付金
・就職促進手当(労働施策総合推進法)
・政府職員失業者退職手当(国家公務員退職手当法) など
労災保険関係 以下の給付を、2004年7月以降に受給された方
・傷病(補償)年金
・障害(補償)年金
・遺族(補償)年金
・休業(補償)給付 など


まとめ

国の重要な統計である毎月勤労統計、しかも15年の長期にわたる不正による影響はことのほか大きなものとなっています。厚生労働省では影響を受けた人の特定、追加給付額の確定を進めているところですが、2019年5月には公表するはずだった毎月勤労統計の3月と2018年度の確報値について公表の延期を発表しており、この問題がどのように落ち着くのかは引き続き注視しておく必要があるでしょう。

厚生労働省のウェブサイトの以下のページで、不足分の支払い等開始についての最新情報が公開されています。

雇用保険を受給中の方に対し、正しい額でのお支払いが始まりました(毎月勤労統計の不適切な取扱いに関連する情報)


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この記事を書いた人

hutas編集部

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